私自身、数多くフランスレストランを手掛けてきましたが、シェフの多岐にわたる驚くべきアイデアやこだわりをこれ程までに多くいただき、完成までこぎつけたお店は初めてでした。
厨房全体の考えもそうですが、フランスレンジに至ってはシェフのこだわりと斬新なアイデアがたくさんつまった作品と呼べるほどのものです。
打合せ時には、シェフから積極的に斬新なアイデアを何度もお出しいただき、さらに、私もこのシェフの姿勢に感化されるように、デザイン面で何度もご提案いたしました。こうして一緒に厨房を作り上げ、さらに多くのことを私自身、楽しく学ばせていただきました。
また、オープンから半年経っても厨房内は隅々まで清掃されており、改めてシェフの料理やキッチンに対する思いが伝わってきました。
今回、ラ-ル・エ・ラ・マニエール様の厨房に携わる事ができ、また、シェフとの出会いにとても感謝しております。
シェフ自身、日本料理を学ばれた後フランス料理に転向し、フランスで7 年間修行したという異色な経験の持ち主です。 この様々な経験とシェフの料理に対する確固たる思いが集大成となって、このフランスレンジが完成しました。
シェフの調理人としての多彩な経験から繰り出される考えや機能・清掃性に対するアイデア、そのどれもがとても新鮮で、私自身も大変勉強になりました。
また、デザインの面において、当初より、“お客様を厨房に招待して見ていただく”と伺っておりましたので、変化があり、真っ先に目に留まる物にしようとご提案を繰り返させていただき、機能性とデザインを兼ね備えた完成度の高いレンジができたかと自負しております。
シェフがフランスでお使いになっていた仕様を参考に、コンロ部分は吐水口と排水口を設け、水が溜まる仕様にして清掃性に配慮しました。
「フランスレンジの前に立ちながら、一通りの作業をできるようにしたい」というご要望がありましたので、フランスレンジの両端やグリドルの下には調理器具を入れる場所を設けるなど、作業性の向上 を目指しました。
お店のカラーであるブルーをフランスレンジに採用し、お店のロゴを入れることをご提案いたしました。
グリドルで焼いている食材を一端取り出して、切ったり、ちょっとした作業をする時の台がほしいということでしたので、グリドルの下に引き出し型の作業台をつくりました。食材を切る際はここにまな板を置いて使用します。
スペースが限られていたからこそ、生まれた優れ物です。
シェフは微妙な温度管理が必要になってくる、「低温調理」を得意とされており「温度」にはかなり気を配っていらっしゃいました。そのこだわりは、厨房機器としてのウォーマーでは、微妙な温度管理が難しいとのことで、医療機器用のウォーマーを入れたほどでした。フランスレンジにもそのこだわりは反映され、微妙な火の入れ具合を調節するために、食材を焼いてから一端休ませるための台をグリドルの上に作りました。高温の鉄板で食材を焼いてから、低温の台に移して、じっくりと満遍なく食材に火を通します。
厨房スペースが限られていたため、舟型シンクを加工して作業台としても使用できるようにしました。最近ではフランス料理店でも設置することが増えてきた舟型シンクは、蓋をつけることによって、作業台としても利用できます。
スペース的に厳しい制約がありながらも、デザートエリアは専用の部屋を設けました。食材の温度管理や品質管理を徹底させるために、中低温用エアコン(通常のエアコンより低い温度設定が可能)を取り付けてデザートを作る際に最適な温度を維持できるようにしました。
シェフがフランスでお使いになっていたシンクの仕様を参考に改良いたしました。 膝で突起部分を押すと水が出る構造で、鍋などを持っていて両手がふさがっている時でも使用でき、また、蛇口に手を触れなので衛生性面でも優れています。
厨房内の動線上によく置かれているゴミ箱が、目に付きにくいように、収納可能なゴミカートの採用をご提案いたしました。
ドアは開閉時の静音性に配慮して、エアダンパー付き扉を採用しました。閉まり始めた引き戸が枠にぶつかる前にブレーキをかけ、ゆっくりと確実に枠に引き寄せる二段構えで、衝突音を低減しはね返りを防ぎます。また、意匠的にすっきりとさせるために表面に取手はとりつけず、面材の手掛けで開閉します。面材を斜め45 度にカットすることにより、手をかけやすく開閉しやすくしました。