1927年の開業以来、世界中の著名人をもてなしてきた、老舗ホテル「ホテルニューグランド」様。
その厨房をお手伝いできるというとても名誉あるお話をいただいた時は、光栄である思いと同時に、大きなプレッシャーを感じました。
今回は厨房の全面的な改装ということで、メイン厨房の場所は変わらなかったものの、今まで2つに分かれていたデザート厨房を統合するなどかなり大がかりな改装となりました。
元々、ホテルニューグランド様がお使いだった厨房はとてもしっかりとした作りで、長期に渡ってご使用されていましたが、「衛生管理を徹底させ、厨房を新しくしたい」。というご要望があったため、「クレンリネス」な厨房をご提案しました。
また、複数の結婚式場や宴会場、レストランの料理や仕込みも行っている規模が大きな厨房のため、沢山の食数に対応できるように効率的な動きができる厨房にしました。
ニューグランド様の厨房をお納めして3年。年に数回、挨拶にお伺いし、その度に「これはこっちの方が良かったから、今度こうして」「これ、使っているうちに弱くなるんだよね」など様々なご意見、ご要望をいただき、常に勉強、勉強です。
でもそんな中、「これ、とっても良いよ!また、作って!」「あ、久し振りだね!!今度、何かあったら宜しく」と声をかけていただき、私がお手伝いした厨房を喜んでいただいております。そのような声が活力となり、お客様にとって、使い易い厨房にするために、「あれをしよう。これをしよう。」と次への構想がふつふつと沸いてきます。
今回、当社が提案設計した厨房は1階のデザートを作る専用の厨房と、2階のメイン厨房です。
1階のデザート厨房はホテル内で提供するデザートやウェディングケーキ、さらに焼き菓子類も作っています。2階のメイン厨房は宴会場4カ所、ホテル内レストラン3カ所、ラウンジ1カ所、バー1カ所のお料理やその仕込みをしており、さらに、マヨネーズやドレッシング類においてはホテル内の全ての施設でお出しするものを作っています。
それぞれの厨房で調理しているものは異なると言え、「クレンリネスな厨房」という点と、「効率的な動きができる厨房」にするということを念頭に置き、様々な角度からのご提案をしました。
今回は「衛生管理を徹底させたい」というお話がありましたため、交差汚染を防ぐため従業員の動線、食材の動線、食器や什器などの動線が逆戻りしないように「ワンウェイ」の動線にすることに注力しました。厨房の「ワンウェイ化」は厨房全体の衛生管理を徹底させるだけではなく、作業の効率化を図る上でも重要となってきます。 そのために、各作業エリアを明確に分け、それぞれのエリアの出入り口や厨房内に手洗器を設け、調理従事者以外が厨房スペースに入る際は白衣着用を義務づけました。
「汚染区域(食品の保存や下処理を行う場所)」と「非汚染区域(食品の調理や盛りつけ、配膳を行う場所)」を別け、その中でもさらに作業に応じてエリアを分けました。そして、各作業エリアを移動する場合は、履き物を履き替え、手洗器で洗浄・手指の消毒を行います。
厨房をワンウェイ化するために、パススルー冷蔵庫を採用しました。
パススルー冷蔵庫は、表からも裏からも開くように扉が両開きになっており、下処理室で処理された肉や魚はパススルー冷蔵庫に入れられ、ホットエリア側で受け取り調理します。これにより、交差汚染をなくし、効率的な作業動線を作るとともに、それぞれの作業区間を分割でき、的確な衛生管理を実現できました。
冷菜室に入る時、一緒に塵埃などの汚染物質を持ち込まないようにエアーシャワーを設けました。冷菜室と外部の間に、二重扉によって仕切られた小部屋を設け、中に入ってきた人に清浄空気を吹き付けることで、衣服に付着したゴミ・ホコリ・毛髪などを吹き飛ばし、塵埃を除去します。
各エリアごとに容器洗浄機を設置しました。
かつては、調理の際に使用した道具類はシンクで手洗いしていました。今回のリニューアルで専用の洗浄機を設置したことで、使用した調理道具類をその場で、高温のお湯ですぐに洗えるため、衛生性を保て、時間短縮にもつながります。
シンクや作業台、キャビネット、調理台等は衛生性を保つため製品の各箇所に「清掃のし易さ」「ゴミ溜まりを防ぐ」という点に注力した設計を施しました。また、耐食性に優れたSUS304ステンレスで厚さ2mm板を使用したため、とても堅牢な作りになっています。
脚部とシンク底部をつなぐ接合部に隙間をなくす構造を採用したことより、ネジ山などに溜まるわずかなゴミも排除が可能になり、さらに、バックガードの上部を斜め45°にカットし、ゴミが溜まるのを防ぐ構造としました。
機器の各部をR加工にし、スノコを取り外し式にすることによって、清掃性はもちろんのこと、使い勝手も向上しました。
シンクには衛生性を考えステンレスバーを取り付け、スポンジやタワシなどの物を洗う時の道具を掛ける場所を設けたことにより、物を洗う場所を確保でき、シンク周りを衛生的に保つことができます。
調理台の戸は上から吊るタイプにしました。こうすることで、戸のレールが不要になり、レールにゴミが溜まるのを防げます。勿論、内部は清掃性に優れたR加工を採用。
宴会場が4カ所ある、ホテルニューグランド様では、そこで使用しているお皿やカトラリー、グラスの数が膨大なため、保管場所の確保も大変です。そこで、トップトラックシステムをご提案しました。
通常は、複数の棚を設置する場合、棚と棚の間に人が入って物を出し入れするスペースを確保しますが、このシステムはそれぞれの棚の上部にレールがついており、ラックを左右に動かして、人の入るスペースを作ります。
トップトラックシステムを採用することによって、限られたスペースを最大限に活用し、作業の効率化が可能になりました。
スープクーラーはケトルや寸胴鍋で調理されたスープ・ソース類の粗熱を取る機器です。
ニューグランド様においては、大量のものを短時間で冷やすことが多いので、空冷式(冷たい風をあてて冷やす)よりも熱効率良い水冷式(冷たい水につけて冷やす)をお使いになっていました。しかしながら容量が小さかったため、今回はご使用になる寸胴鍋の大きさや個数を伺い、それに対応するスープクーラーをご提案しました。
さらに、元々、水冷式の冷蔵庫や製氷機も導入されており、クーリングタワー(水冷機で使用した冷却水を再度、使える温度まで冷却する装置。)の設備を備えていたため、その設備を活用することによって、ランニングコストも抑えることができました。
スープケトルやディッシュウォーマーも熱効率のことを考慮し、大量のお皿やソース、スープ等の料理を短時間で温めるように蒸気式を提案しました。