イタリア語で“食べ物の家”を意味する、カーサ・デル・チーボ。地元はもちろん、県外からも食通たちが集うと注目の店だ。
天然木をふんだんに使い、お洒落で洗練されているのに、とても居心地のいいまさに“家”を感じる店には、連日多くの客で賑わっている。
オーナーシェフは、フランス、イタリア、そして東京で、フレンチ、イタリアンのシェフとして研鑽を積んだ池見良平さん。
その池見さんを魅了した、食の宝庫八戸。そこで生まれた数々の料理は、どれもここでしか作れない八戸のイタリアンだ。提供される料理は、ランチ、ディナー共通で、数種のコースしかない。それは、その日に手に入れた新鮮な食材を、その時に食材から感じたイマジネーションによって料理を作りたい、というこだわりから。
「『いいタコがとれたよ!』って馴染みの漁師さんから連絡を貰えば、すぐに港に飛んでいってそれを仕入れて、この素材に負けない料理を作ろうって創造をふくらませます。正直、そのまま食べても十分美味しい(笑)。でも、僕は料理人だから、手をかけて、美味しい素材をより美味しく、お客さんを感動させる料理にする。それが僕らの仕事です」
その時、ここでしか味わえない、池見シェフの料理は、まさに一期一会。そのきらめきが堪能できる、八戸が誇る名店。
東京で料理人として十数年修行している間には、いろんな店の厨房を見てきました。その中で、自分の店を持ったらこんな厨房にしたいというものは ずっとあたためてきたので、今回はタニコーさんに対する要求も、自然と厳しいものになってしまって、苦労をかけてしまったかな、と思います(笑)。それでも、本当に一生懸命やってくれて、アフターフォローの部分も含めて、今はタニコーさんにお願いして良かったと心から思っています。
厨房の基本コンセプトは、料理人が一人で全ての料理を作ることができる厨房でした。さらにオープンキッチンという形式にしたのは、店舗の設計をお願いした設計士さんとも話し合って、厨房にいても全てのお客様に目を配らせることができるというメリットから選択しました。ですから、動きやすくて無駄のない動線を徹底的に考えたレイアウトはもちろん、客席からの目線も意識する厨房という、かなり難易度の高いものになってしまったのです。
タニコーさんの厨房機器に関しては、修行時代に使ったこともありましたので、その性能に不安はありませんでした。やはり、料理人は使い慣れた機器を使いたいという思いが強いですし、一人でやるとなるとなおさらそうでないと辛かったですから、今まで使ってきた中で一番自分が使いやすいタイプのものを選びました。
揃えたのは、基本的にベーシックなものばかりですが、やはりその設置位置レイアウトについては、かなり骨を折ってもらいました。実際にこういう流れで使いたいからどうしてもこの位置になければ困る、といった具合にです。
例えば、ヒートトップなどは、もともとの厨房スペースの関係で規格品ではなく特注で作ってもらいました。タニコーさんは、機器ありきじゃなくて、常に我々の料理人の気持ちになって一緒に問題をクリアしてくるので嬉しかったですね。
店をオープンしたのが2011年5月なのですが、直前に東日本大震災があって、店をオープンするためにお付き合いを始めた漁師さんや生産者の方も被災されましたが、タニコーさんも大きな被害を受けたと聞きました。そんな中でも、一日も早くオープンできるように力を尽くしてくれたタニコーさんには本当に感謝しています。
当社がカーサ・デル・チーボ様の厨房施工のご用命を頂いたのは、オーナーの義父様のご紹介でした。まだお若いとはいえ、長年、東京で腕利きのシェフとして活躍をされたオーナーでしたから、厨房作りに関しても、きっとこだわりがあることだろうと、覚悟して仕事を始めましたが、すぐにその目指すレベルの高さに驚かされました。
私も、厨房作りには浅からぬ経験を持っていましたが、私が携わった中で少なくとも八戸、青森では、ここまで細かな気を遣い、厨房や店を作られているオーナーはいません(笑)。
厨房づくりは、基本的に、一人で全てを行える環境を目指してスタートしました。具体的には、無駄を排除した動線を徹底的に追求しました。それに加えて、オーナーがこだわったのが、客席から厨房がどう見えるか、ということでした。カーサ・デル・チーボの厨房には、壁にかけたフライパンといった、よくある景色がありません。これは、オーナーが厨房も店のインテリアの一部と考えて、見苦しい壁のフライパンをやめて、スッキリと見せたいとお考えなったからです。
これはほんの一例ですが、オーナーは、機器を設置する際も、それが客席からどう見えるのかを必ずチェックされ、ミリ単位で指示を出されました。恥ずかしながら、私の今までの厨房作りの経験では、魅せる、隠すといった、細かな視点は持ちあわせていませんでした。聞けば、店の床壁の材質、色から、テーブル、食器、内装の調度品の小物に至るまで、全てオーナーがチェックして、トータルで店をプロデュースしているとのことでした。カーサ・デル・チーボ様の仕事は、私個人としても、一段レベルの違う仕事、今後の厨房人生においても大変勉強させて頂いた案件となりました。
蛇足ですが、カーサ・デル・チーボ様の厨房を担当させて頂いた後に、飲食店関係者から「あの素敵な店の厨房、タニコーさんがやったんだって?」と声をかけれられることが度々あり、私自身とても誇らしく嬉しい気持ちになると同時に、当社としてもこの案件が大きな財産になったと心より感謝しています。