ミシュランガイドにおいて、4年連続3つ星を獲得した『カセント』は、兵庫県庁からもほど近い、静かな住宅街にあった。
オーナーシェフ・福本伸也氏は、スペインの名だたる有名店でシェフを務めた経歴から、『カセント』も、スペイン料理、モードスパニッシュなどとして紹介されることが多い。しかし、この店の料理を味わった人々からは、○○料理というカテゴリで語る事はできない。と福本シェフの料理の魅力を話す。
料理のコースは、ランチ、ディナー共に一コースずつ。その時にしか味わうことのできない、珠玉の料理が楽しめる。
「一口で鮮烈なインパクトを与える料理があるかと思えば、実に優しくて深い余韻を残す料理もある。そして、いつ来ても新しい驚きがある」とは、常連客の言葉。いつ訪れても、新鮮な感動で客を驚かせてくれるのだ。
「お客様が大いに満足されて、席を立つことだけを目指している―」。言葉少なめに『カセント』の決意を語る福本シェフ。そのために常に更なる進化、高みへと努力を惜しまない。その姿は、料理人でありながら求道者を思わせる。
『カセント』は、今、最も予約の取りにくい店の一つだが、苦労をしても、どこまでも謙虚に高みを目指す、この店のテーブルに着く価値がある。
2008年にここで店をオープンして、昨年、念願だった全面改装を果たすことができました。以前の店の厨房は、現在の四分の一程度のスペースしかなく、しかも店の奥にありました。スペインをはじめとして、海外の店は、厨房がとても広く快適。でも、日本では、お客様第一ですから、昔から客席を広く、厨房は店の奥の狭い場所にあるのが常識でした。
今回の改装では、思い切って通りに面した明るい場所に厨房を設えることにしたのですが、関係者はみんな驚いていました。でも、これも私なりの「お客様第一」を考えた結果でした。やはり、料理人が働きやすい環境があってはじめて、お客様を満足させる料理が作れるわけですから。
今回の改装で、以前よりもずっと動きやすくなりました。私だけでなく、若いスタッフたちもみんな大満足しています。おもしろいのは、厨房の常識をよく知っている同業者が、この厨房を見に来て、みんな驚き、羨ましそうにしていることでした(笑)。同業者も羨む、こんな素敵な厨房を作ることができたのは、タニコーの斉藤さんのお力添えがあってこそ、と私は感謝しています。
厨房レイアウトに関しては、あえてコンセプトを決めずに、斉藤さんと私、そして、店のスタッフも交えてディスカッションをしながら決めていきました。
タニコーさんと厨房を作るのは初めてでしたが、斉藤さんの知識の広さ、深さ、そして、誠実さは、ディスカッションをしてすぐに分かりました。そして、この人なら信頼していいと感じたのです。
私は、人との縁、繋がりをとても大切にしています。料理の食材を提供してくれる農家さんなども、顔だけでなく、どんな人なのかお互いに人柄まで知るお付き合いをしています。料理人は、そういう信頼がおける人々に支えられて、はじめて安心して料理が作れるんですね。
厨房作りもまったく同じです。今回、斉藤さんという信頼できるパートナーを得なければ、きっとここまで満足できるものにならなかったと思います。
細かい話を少し付け加えると、いろいろな料理の技法を使う中で、既存の機器では対応しにくいという相談を斉藤さんに持ちかけたところ、工場と根気よく話をして頂いて、特別な仕様にして納品していただいたということがありました。これには、タニコーさんという、モノ作りの会社の力も感じましたね。これからも、店を支えるパートナーとして、斉藤さん、そして、タニコーさんにお力添えをお願いしたいと思っています。
カセントさんの厨房は、私の長い営業マンの経験の中でも、特に印象深い厨房の一つになりました。
まず、特異なのは、窓を大きく切った、通りに面した広々としたレイアウトです。最初に店全体の見取り図を拝見した時、私はとても驚きました。普通に考えると、客席を作れば特等席になる場所ですから、本当にこれでいいのですか? と(笑)。
でも、オーナーシェフの福本さんとお話をしてみると、すべては「お客様の満足」という、一点にその思いが向かっていることはすぐに分かりました。
福本さんのお話は、何を話していても、常にお客様のテーブルまで思いを巡らせているのです。例えば、「この料理は、こうした技法を使って作ります。そして、お客様にお出しする時はこんな状態にしたい。そのためには、皿を何度に温めておき、厨房から席まで何秒以内で運ぶ必要がある」といった具合です。
厨房の基本コンセプトは、シンプルで動きやすく、機器に関しても必要なものを効果的にキレイに収めることに注力しました。店のスタッフの方も交えて、動きやすさについて何度もディスカッションして、レイアウトを決めていったのです。
ただ、料理を作ること、提供することに関しては、福本さんには徹底したこだわりがあり、一歩も妥協を許しません。もちろん、スタッフの方もそれをよく理解しているので、店が一丸となって、一皿、一皿、まさに命をかけている印象です。こうなると当然、私の意識も、厨房屋の範疇にはとどまらず、お客様をどう満足させるかまで広げる必要があり、とても勉強させられました。
厨房機器を選ぶ時、『炭火グリラーの焼網用棚を10段付けてほしい』というオーダーをいただきました。正直『そんなに必要なのかな?』と思い意図をお聞きしたところ『炭火は焼くだけではなく香り付けに使うんだよ』といわれてビックリしました。発想の違いに感心させられるとともに、美味しいものを提供するために、ありとあらゆるものを工夫しておられるのだなあと思い改めてこれがプロの技だと得心しました。
福本さんからは、厨房を納める際にも「すごく満足している」というお言葉を頂きましたが、その後、店が本格的に稼働をはじめた後にも、度々「本当に使いやすいよ」と気さくに声をかけていただき、本当に嬉しく思います。これからも、進化し続ける福本さんのご要望に応え、カセントを訪れるお客様の満足に少しでも貢献できるよう、努力していく所存です。