味がいい、店の雰囲気がいい、サービスが優れている。
いい店と呼ばれるためには、この最低限3つの価値が必要となる。さらに、名店と呼ばれるようになるためには、「人々に語り継がれ、恒久的に繁盛している」という厳しい価値がそこに加わる。
福岡の老舗イタリアン・カサーレは、創業から三十年あまり、地域の人々に愛され、繁盛し続けている、まごう事なき名店。オーナーシェフの藤本和則シェフは、「こうして今まで店を長くやってこられたのは、儲けようとガツガツしなかったからかな。創業当時は、苦しい時もあったけど、おいしい料理を作ってさえいれば、お金は後からついてくるって思ってましたね。もっとも、自分は料理しかできない男だから、お客さまの対応は女房任せ。それがなかったらきっと店は続いてないよね(笑)」と、名店を築いてきた秘密を語る。
名店には、語り継がれる名物、看板料理が必ずある。カサーレの名物といえば、ペペロンチーノだ。親子二代三代でこの店に通う常連も、県外からくるグルメも、皆、このペペロンチーノを食べるためにくるという。
現在は、オーナー夫妻に加え、イタリアで修行を積んだ長男の慎一シェフも店に加わり、カサーレ自体も親子二代となった。「これからは息子の時代だよ」と笑う藤本和則オーナーシェフだが、名店継承のために、まだまだ現役でがんばっていただきたい。
この店の一番の特徴は、厨房からお客様の様子がきちんと見えることです。これは最適なタイミングで料理を作って出したい、という父のこだわりで、実際に厨房に立ってみると、お客様がどこまで食べているか、おいしく食べていただけているかなど、つぶさに確認することができて、とても仕事のしやすいレイアウトです。
オープンキッチンは、お客様が料理人の仕事を見るため、店の演出の手段と考えがちですが、うちは違った理由で、このカタチにこだわっています。
また、厨房自体も、すごく機能的に動きやすく作られています。もともとこの店は、厨房一人、ホール一人、夫婦二人三脚の店でしたから、機能的で使い勝手がよくないと、店は回らないわけです。厨房を作る際には、タニコーさんには、何度も図面を引いて、動線も随分考えてもらったと父から聞いています。メンテナンスもそうです。シェフは一人ですから、何かが壊れたら店は営業できない。だから、トラブルがあればすぐに店に来てもらえないと困るわけです。最近は少し丸くなりましたが、以前は、厨房機器などにトラブルがあると、昼夜問わず、タニコーさんの担当を電話で呼びつけたと聞いています(笑)。
父は、職人気質というのでしょうか、仕事にはとても厳しい人なので、タニコーさんにも随分ご迷惑をおかけしたはずですが、そこは仕事ですから、致し方ない部分もあると思います。父も私も、命かけて店を守っているという自負がありますから、業者さんとは単なるお友達になってしまってはダメなんです。
タニコーさんは、そこをきちんと理解してくれて、その上でプロとしてちゃんと意見してくれます。だから、父も私も全幅の信頼をおいているのです。
昨年末、私の弟が店を出した時にも、父の一言で厨房はタニコーさんにお願いしました。やっぱりいい仕事をしてくれていましたね。実は、父は、その厨房の、スチームコンベクションオーブンに大変興味を持ってしまい、カサーレにも入れて欲しいと、担当の鬼木さんに相談したそうです。
でも、鬼木さんからは、現在の作業動線を考えると、今は無理にスチコンを入れないほうがいいと言われたようです(笑)。本来、営業はモノを売るのが商売のはず。でも、鬼木さんは「改装する時にもう一度、イチから考えて入れましょう」と譲らないんです。鬼木さんもタニコーさんも変わった会社ですよ(笑)。でも、本当に客のことを考えてる、店の事を考えてる。このプロ根性があるから、父も私も信頼しているのだと思います。
前任者より、カサーレ様を引き継いだ時に、一言言われたのは「とても厳しいお客さまだよ」ということでした。程なくして、それを体感することになるのですが(笑)、私は、カサーレ様の藤本和則オーナーと仕事をさせていただく中で、本当にたくさんの勉強をさせていただいたという思いがあります。
もちろん、厳しさはありますが、それは自分に対する厳しさで、こんなに長い間店を繁盛させ続けている所以がそこにあるのだと思います。当社がこの店の厨房を作らせていただいた時には、私は担当者ではなかったわけですが、13年経った今も、納品した当時のままといっても過言ではありません。もちろん、年季は入っていますが、すべての機器は最初のままで現役ですし、その管理、手入れは驚異的です。それだけ店に愛情を持ち、自分に厳しくやってきた方なのだと、厨房を見ても分かるのです。
また、現在は長男の慎一さんも店に加わりましたが、お父様である藤本和則オーナーに輪をかけたきれい好き(笑)。当社としては、10年もすれば、そろそろ新しい機器に替えていただけるころなのですが、慎一さんがいる限り、まだまだピカピカ現役の厨房で在り続けるのではないかと思います。
実は、慎一さんと私は同級生で、子供の頃から地域の野球チームで戦った仲。偶然にも、担当したカサーレ様の藤本和則オーナーの息子さんが慎一さんということで、今では、公私ともに仲良くしていただいております。
また、今回は、次男の慶輔さんが出店した、ラ ルカンダ様の厨房も手がけさせていただいて、本当に感謝しています。慶輔さんもやはり、藤本一族の血を感じる一徹さを持つ方でしたので、時には意見が衝突しましたが、想いがブレないので、仕事は非常にやりやすかったです。
最近は、お父様がラ ルカンダのスチコンを見て気に入っていただいたようで、「カサーレにも入れてほしい」と言われているのですが、せっかく最高のバランスで存在しているあの厨房に無理に入れないほうがいいのでは? と助言させていただきましたら、本当に営業なのか?と笑われました。
でも、当社の営業は、モノを売るのが営業だとは思っていません。その店を繁盛させる、その店に来るお客さまに喜んでもらう、そこまで見据えて仕事をする事がタニコーの営業なんです。売ってくれって言われているのに売らない、確かにヘンな営業かも知れませんが、お父様にはラルカンダ様を、慎一さんや慶輔さんにも同業者のお友達をご紹介いただき、厨房を作らせていただいています。皆さんに心から感謝するとともに、これからも自信を持ってタニコーの営業を続けていきたいと思います。