南イタリアの伝統的料理・ナポリピッツァの名店として知られるPIZZERIA PARTENOPE(ピッツェリア パルテノペ)。
肉やバターを中心とする北イタリアに対して、野菜、魚介、オリーブオイルを中心とする南イタリアの料理。ピッツァに使用するチーズも、発酵したプロセスチーズではなく、発酵をともなわないフレッシュなモッツァレラチー ズを使うため、胃に優しくヘルシーなのが特徴だ。
縁の部分が大きく膨らんだナポリ独特のピッツァと南イタリア料理は、「お腹いっぱい食べても、胃にもたれない。翌朝もすっきりしている」とおいしさはもとより、ヘルシーさに魅入られ、来店する客が後を絶たない。
しかも、パルテノペのナポリピッツァは、ナポリピッツァの伝統、技術を再評価し、守るために設立された世界的組織「真のナポリピッツァ協会」からその正統性が認められており、日本中におけるナポリピッツァのパイオニアとしてその名を馳せている。
ピッツァの生地に使用する材料は、小麦粉、水、酵母、塩の4つのみ、窯の燃料は薪もしくは木くずとする、など、伝統を守る厳格な基準を満たした、まさに「真のナポリピッツァ」を食べられる名店だ。
10年前広尾でこの店を始めるとき、最初から厨房はタニコーさんにお願いしようと決めていました。いや、正確に言えば、タニコーの高野さんに、です。高野さんとは、私がパルテノペの前にシェフを務めていた、イタリア料理店で知り合いました。彼の良さを一言で言えば、誠実さでしょう。いわゆる売りっぱなしの営業ではなく、アフターフォローも欠かしませんし、何かトラブルがあった時でも、常に顧客側の目線で考えてくれるところがありがたくて、以前から全幅の信頼を寄せていたのです。
ですから、パルテノペの厨房を作るときには、私は、高野さんと以外はやるつもりは全くありませんでした。もちろん、ビジネスですから、形式的には他社との相見積りも取りましたが、実際にはその見積りでも、一番頑張ってくれたのはタニコーさんだったんです(笑)。
厨房の設計についても、高野さんは経験豊富で頼りになりました。またお互いに気心知れた中でしたから、私も遠慮なく要望を出せましたし、コミュニケーションは実にスムーズでしたね。この店は、俗に言う「うなぎの寝床」で、決して簡単なレイアウトではなかったはずだと思いますが、頂いた厨房設計の提案に、私なりのアレンジ、リクエストも加えて、最終的には希望どうりの厨房ができあがったと思います。
もっとも、イタリアンの厨房機器と言えば、コレがないと話にならないというのはパスタボイラーぐらいで、後はシェフの好み。サラマンダー(※)を持っていない店もあります。うちの店も、南イタリアの伝統的な調理方法に則って料理を作る、というコンセプトなので、ピザ窯もイタリアから取り寄せた薪の釜ですから、タニコーさん的にはあまり利益の出る仕事ではなったのかもしれませんが…(笑)。
タニコーさんに厨房を作ってもらってちょうど10年たちますが、納入して頂いた厨房機器も含めて、非常に使い勝手もよくとても満足しています。もちろん高野さんも、相変わらず軽いフットワークでちょくちょく店に顔を出してくれますよ。あと、さすがタニコーさんだな、って感じるのは、何かトラブルがあった時ですよね。電話一本ですぐに駆けつけてくれて、修理が必要であればすぐさま迅速に対応してもらえる。やはり、厨房機器のトップメーカーの実力は伊達じゃないって感じますよ。
※調理仕上げの焦げ目付けをスピーディーにする機器
渡辺さんは、イタリアや日本で長い経験を持つ料理人で、厨房作りに関してもベテランです。ですから、図面を持って行けば、何も説明をしなくても、その動線がどういう意図で描かれているかを全部読み取ってくれます。そういう意味では、パルテノペ広尾店さんの厨房作りは、とてもスムーズに進めることができました。
ただし、このお店は、奥に細長いという特徴があったので、当社から最初にレイアウトをご提案させていただいただく際に、かなり悩んだことは確かです。実は、そこでも渡辺さんの経験や、厨房作りに関する卓越したアイディアに助けられました。聞けば、イタリアでは古い建物を利用した飲食店も多く、厨房環境も良好な店ばかりではないとのこと。そんな中で修行を重ねてきた渡辺さんだからこそ、私たちが思いもよらない提案を幾つも出していただけたのでしょう。
パルテノペの厨房の特徴としてもう一つ挙げられるのは、やはり店舗面積の約半分にも及ぶ広さです。これだけの割合を厨房にするというのは、私の長い経験でもはじめてのことでした。通常は、店舗面積の1/3もあれば広い厨房と言われるわけですから、店の看板でもある大きなピザ窯が厨房に鎮座していることを差し引いても異例と言えると思います。もちろん厨房スペースが広ければ、それだけ働く人は働きやすいわけですが、渡辺さんが厨房を広くした狙いはそれだけではなかったのだと思います。
それを感じたのは、私が客としてお店にお邪魔させて頂いた時でした。店はとても活気に溢れていました。パルテノペは、渡辺さんが南イタリアの伝統料理にこだわって作ったお店ですが、料理のみならず店の雰囲気も、まさに陽気な南イタリアなのです。そして、その活気、雰囲気を巧みに演出していたのが、大きな厨房でダイナミックに動き回る店の皆さんでした。
パルテノペさんの仕事では、私自身も多くのことを学ばせて頂きましたが、一番はやはり渡辺さんのプロデュース能力でした。広い視野で、店全体を考えた上で厨房と言うものを考えるという姿勢に、大いに刺激を受け、たくさん勉強もさせていただきました。また、そんな素晴らしい店の厨房を担当できたことを、今も誇りに思っています。