2007年7月、東京・恵比寿の一角にオープンした「くずし割烹かのふ」。思い切った広さでレイアウトされたオープンキッチンでは、南青山の「Sushi of GARI」や原宿の「上ル下ル西入ル東入ル」といった名だたる名店で料理長を務めた、香山中宣氏が腕を振るう。
「ウチの料理はそこそこですけど(笑)、食材にはとことんこだわってますよ」
そう語る香山氏の言葉どおり、京都から取り寄せる野菜や、自ら生産者を訪ねて選んだという淡路牛など、厨房には選りすぐりの食材がズラリと並ぶ。そんな贅沢食材をふんだんに使用した料理は、8品コース(4750円)・10品コース(6800円)・12品コース(8800円)の3種類のみ。「料理はそこそこ」と謙遜する香山氏の言葉とは裏腹に、連日女性客を中心とした食ツウたちがこぞって足を運んでくる。コースメニューのひとつ、“穴子のにぎり寿司”を目当てに訪れる有名人もいるという。
また料理に負けず劣らず魅力なのは、お酒のラインナップ。店内には数え切れないほどの日本酒や焼酎、ワインが揃っている。なかなかお目にかかれない「十四代」の限定酒やあの「森伊蔵」までスタンバイしているというから、お酒ツウも大満足すること確実だ。
「くずし割烹かのふ」の広さは、実は13坪弱しかないんです。だからある程度の席数をキープするのも大事でしたが、設計で一番こだわったのは「厨房スペースを最大限に確保すること」。厨房が狭いと設置できる厨房機器にも限りが出るので、どうしても作れる料理に限界が出てきてしまいますからね。私たちの仕事は「料理を出してなんぼ!」なので、厨房の広さに関しては妥協したくなかったんです。その結果、店の約半分が厨房になってしまったんですけどね(笑)。
ある程度の広さを確保できたとはいえ、欲しい厨房機器を数え上げたら、絶対にこのスペースに収まるはずがなく……。なのでコンベクションオーブンなどはあきらめたのですが、それでも広さの割には満足のいく厨房設備となりました。約6坪の厨房内にアイスクリーマーもあれば、ワインセラーもある。それに洗い場だって、板場用、フライパン用、ドリンク用と3つあるんですよ。「この空間で、これだけの厨房設備は豪華!」と、同業者の友人からも驚かれますね。
今振り返ると、「タニコーさんはよくこれだけの厨房機器を、上手にレイアウトしてくれたなぁ」と思います。それに、使い勝手も抜群。もっと狭いかと思ってたのですが、実際に使ってみると2人がすれ違えるだけの余裕もあるんです。なのでこの厨房は、カウンター割烹の料理人である私にとって、最高の“舞台”だと思っています。
これら厨房設計における技術力の高さに加え、タニコーさんには信頼できる営業マンさんがいるのも魅力。こんなことを言ったら失礼かもしれないですが、正直厨房機器の性能ってどのメーカーさんでもそれほど大きな違いはないと思うんですよ。だから私たちは、けっきょく人で選ぶことになるんです。今回担当していただいた船木さんは、初めてお会いしたときからすごく信頼できる方だったので、迷わずタニコーさんに決めました。店舗設計の途中でデザイナーが変更になるなどして何度も迷惑をかけたのですが、それでも嫌な顔ひとつせず素早く対応してくれたのもありがたかったですね。また舟木さんだからこそ、万が一、厨房機器にトラブルが起こってもすぐにケアしてもらえるという安心感がある。そういった意味でも、今回タニコーさんにお願いして正解だったと思っています。
厨房機器を選ぶ段階からお客さまの相談に乗ることもあるのですが、「くずし割烹かのふ」さまの場合は入れたい厨房機器の種類が、打ち合わせの段階でほぼ決まっていたんです。なので私たちの仕事は、パズルのように厨房機器を配置することだけでした。とはいえ同店の厨房スペースは、和食店にしては非常にコンパクト。オーナーの香山氏のお考えが「厨房機器に関しては妥協したくない」というものだったので、限られたスペースのなかでどのようにレイアウトするかが、私たちの腕の見せどころでした。
厨房機器を配置するにあたって、一番ネックになったのがカウンターの形状。「カウンター割烹にとって、厨房は舞台。だからお客さまがさまざまな角度から見える厨房にしたい」という香山さまのこだわりで、同店のカウンターには緩やかなアールが付けられていたのです。そのためカウンター側に厨房機器を並べていくと、どうしても間にデッドスペースが出来てしまう。限られたスペースのなかに厨房機器をコンパクトに収めるのと同時に、このデッドスペースを最小限にとどめるというのも大きなテーマでした。
初めての打ち合わせから完成まで、香山さまと行った打ち合わせは10数回。途中で冷蔵庫の位置変更はあったものの、作業自体は非常にスムーズに行えたと思います。ただ私のミスで、二層シンクを入れ替えるというハプニングはあったんですけども……。
当社は、お客さまのどのようなオーダーにもお応えする厨房機器メーカーです。ところが単に技術力の高さだけでは、決してお客さまを満足させることはできません。この仕事で一番大切なのは、信頼関係。ですから少しでもお客さまの力になれるよう、日々情報収集は欠かしませんし、何かあったときには素早く対応するよう心掛けています。
「厨房機器を売るのではなく、自分を売る」。私はお客さまにとって、オンリーワンの営業マンでいたいと考えているのです。